4. 夜伽
「ん……ん…………ふ……」
暗い部屋に熱い吐息が折り重なる。鼻にかかった小さな声が漏れていく。
うしろからエリーシャを横抱きにしたフランクは、彼女の服の胸もとの釦をゆるめて華奢な鎖骨を撫で上げて、やわらかな腿に手のひらをすべらせた。
触れられて、肌の下に熱が灯って、エリーシャは思わず身を捩る。彼女の蜂蜜色の長い髪が身体の動きにあわせて躍り、ふわりとあまくにおい立った。
彼はエリーシャのゆたかな髪を鼻先でかきわけて、かぼそい首すじに唇を寄せる。
「んんっ……!」
ちゅ、と音を立ててくちづけられ、エリーシャはびくんと身を震わせた。そのまま熱い舌で、うなじから鎖骨までを舐められる。
首筋が濡れる感覚に肌が粟立って、そのまま背や胸へと舌が這うのだろうと、いけない妄想がふくらんでしまう。彼女は恥ずかしさに身を硬くして、ぎゅっと目をつぶった。
エリーシャの予想に反して、やわらかな感触が落ちたのは頬だった。鼻先に、額に、おののくまぶたに、フランクが軽く唇でふれていく。
おそるおそる閉じていた眼をあけると、彼と視線がからんだ。フランクは微笑みながら、エリーシャのまるい頬に熱い手のひらをあてがう。
「ん……」
心地よくて、あまい吐息が漏れた。
さきほど言った通り、やさしくしてくれてるのだ。胸の奥があたたかくなる。
愛撫が穏やかなぶんだけ、フランクの鼓動と体温が如実に伝わった。溶けあうぬくもりが気持ちよくて、頭の芯がぼうっとする。
彼はうしろからエリーシャを抱きすくめたまま、彼女の体に軽い口づけを繰り返し、時間をかけてゆっくりと衣服をぬがせた。最後に下穿に指をかけて引きずりおろされた時、ぬるりと陰部から糸が引く感覚が伝わって、エリーシャの顔がたちまち真っ赤になる。
(──いじられてもないのに、濡れるなんて……)
フランクとするのは三度目、しかもずいぶんと間があいていたから、すっかり反応が良くなってる上に、触られるのを本能的に待っていたのだ。からかわれると思ったのに、彼は何も言わなかった。
いつの間に襯衣を脱いだのか、うしろからフランクの素肌の腕が、胴まわりにからみついた。すこし汗ばんだ熱い肌の感触に視線を下ろすと、血管と筋の浮いた逞しい褐色の腕が視界に入る。
ほそくてやわらかなミルク色の体との対比に、劣情を煽られような気持ちになって、エリーシャはたまらず目を逸らす。普段はなんとも思っていないのに、こうして密着して体の違いを見せつけられると、フランクは男で、エリーシャは女の子なのだと、そう思い知らされているような気持ちになる。
脇から差しこまれたフランクの腕、その手のひらがゆるゆるとエリーシャの白い膚の上を這った。撫でられるたびにぞわぞわと皮膚の下が騒ぐのに、腿や腹を触るばかりで、弱いところを避けているのがじれったい。
「ふぁ……ふ……フランク……っ」
たまらなくなって、あごを上げて、あまい声で背後の彼に懇願してしまう。エリーシャの濡れたまなざしをとらえて、フランクが唇の端で嗤った。
ほそい喉を引き寄せられて、のけぞるようなかたちのまま、唇を差しこまれる。
「──っん……!」
そのまま口蓋を深く噛みこまれ、熱い舌をぬるぬると擦りつけられて、エリーシャは弓なりになって、くぐもった声を上げた。彼が顎をゆっくりと動かすたびに、口内が犯され蹂躙されていく。自分とは異なる味がとろとろと注ぎこまれる。
互いの唾液がねっとりと泡立ち、何度も深く唇が交わったかと思うと、突然フランクがわざと音を立てて唾液を啜った。
「んーっ!」
耳を犯すようなその響きに、エリーシャはいやいやと頭を振って抵抗する。けれど彼の手がしっかりと喉をつかんでいるせいで、顔をそむけることすら許してもらえない。
「──ぷあっ……はっ……はあっ……」
やっと唇を解放してもらえて、エリーシャは止めていた息を吹き返す。口の端から唾液が垂れて、吸われたせいで赤く腫れた唇が濡れて、てらてらと艶めく。
「あ……」
ひたりと彼の手がまた肌に吸いついて、エリーシャはぶるりと身震いした。何度か腹を撫でられたあとに、手のひらで肋骨をたどられ、まだ未発達の小さな胸のまわりを触られ、わずかなふくらみが寄せられる。
彼の手のひらのなかで、乳がふにふにとかたちを変える。知らず期待が高まって、鼓動と呼吸が速まっていく。
しばらくしてフランクの人差し指が伸びて、やっと胸の先をいじられた。
「ひあぁぁ……っ!」
びくんと大きく体が跳ねた。
フランクの指が、触れるか触れないかという体で、さわさわと薄桃色の乳首の表面を撫でてくる。小さな先端から全身に気持ち良さが広がって、エリーシャの身体がよろこびに戦慄いた。触られるたびに下腹部がじわりと重く、熱くなっていく。フランクの指が、何度も乳房の先を撫で上げる。
何度も、何度も、何度も──
「う……うぅ……っ」
彼の腕に爪を立てて、エリーシャは切なさに歯を食いしばった。
やっと乳首をいじめてもらえたと思ったのに、彼はうっすらと表面をなぞるばかりで、すこしも深く触ってくれない。フランクの指先が行き来するたびに、胸の奥がぞわぞわと気持ちよさで逆立つのに、刺激が足りなくて達せない。
何度も何度も触られた乳首は薄紅色に硬くしこり、どんどん敏感になっていく。痛いくらいに先端が勃っているのに、めちゃくちゃにしてもらえなくて、もどかしい。
「や……やだ……やだぁ……っ」
気持ちよさの波が小さく寄せては返すばかりで、歯がゆさに腹の奥が切なくなる。
エリーシャはこまやかに身体を震わせながらかぶりを振って、内腿をもじもじと擦り合わせた。
「──何が嫌だって?」
それは行為を始めてから、初めて聞く彼の声だった。
過敏になったエリーシャには、そのあまく囁くような声すら刺激になる。耳がぴくんと跳ねて、彼女は小さな悲鳴を上げた。
「ひゃ……!」
「君に言われたとおり、やさしくしてるんだけど」
熱い吐息が首筋に落ちた。彼は相変わらず胸の先端にそっと指をすべらせるばかりで、それ以上の愛撫を加えようとしない。
──おあずけにされている。
そう気付いたエリーシャは、彼の腕のなかで精一杯きつくフランクをにらみあげた。怒っているのに、彼は愉快そうにエリーシャの顔を覗き込む。
「い……いじわる……っ!」
彼の指の動きにぴくぴくと体を反応させながらそう罵ると、目を細めて首を傾げられる。フランクの肩から落ちた乱れ髪が、エリーシャの肌をさらりと撫でた。
「誰がいじわるなもんか。激しくしたら困るって言ったのはエリーシャだろう? たとえばほら、こんな風に──」
「ひ、あ、あ、あぁっ……!」
乳首を指で強く弾かれた途端、なまめかしい声が大きくなる。エリーシャはあわてて自身の口を両手で塞いだ。ぎゅっと眼を閉じて、体を縮こまらせる。
酸欠になったように頭がぼうっとして、顔が熱くて、泣きたくなった。さわってほしいと身体は訴えているのに、さわられるととても声を我慢できないと理性が告げて、本能を阻害する。ふたつの気持ちがせめぎ合って、頭がぐちゃぐちゃになる。
「我慢しなくていいじゃないか。……聞かせてやりなよ」
「ふぁ……?」
とろけた声で疑問を口にすると、フランクはこの上なくやさしい声で囁いてきた。
「ほら、となりの家の……なんて言ったっけ。あの少年に聞こえるくらいの大きな声で、哭いていいよ」
「……っ!?」
エリーシャが目を見開く。
彼女はすぐに、いやいやと首を振った。
「や……や……だめ……キトにきかせちゃ……め……なんでぇ……っ」
「だって可哀想じゃないか。君は僕とこんなことをしてるのに、キトとやらに希望を抱かせたままでいるのは酷だろう。さっさと失恋させてやるのが、あいつのためでもあるんじゃないか?」
偽善的なことを嘯くフランクを責めるべき場面だが、それどころではなかった。
エリーシャは勢いよく背後を振り仰いで、蜂蜜の髪を乱して、彼の眼を見る。
「……キトが……わたしを……?」
「なんだ。あんなに分かりやすかったのに、気付いてなかったのか」
「う……うそ」
夢から覚めたような表情で眼をまるくするエリーシャを見て、フランクは途端に不機嫌そうな顔になる。彼女の身体をきつく背後から抱きつぶし、また乳房をいじめ始める。
「ひゃ! んっ……んんんっ! や、め……!」
「やめない。今さらあの少年の方がいいなんて言っても手遅れだよ」
エリーシャが奏でた嬌声に、焦れたフランクの声が被さった。
彼が人差し指に加えて、親指も使って乳首をしごきあげてきたせいで、エリーシャのあえぎ声がいっそう高くなる。腰が跳ね、身体が捩れ、両手で口を塞いでも、声が堪えきれない。ついにはよだれでべたべたになった小さな指で、フランクの動きを止めようと腕をつかむ。
「ひあ、やめっ……ん! や、ふらんく、ふらんく、が、いい、から……っ! お、おねが、い、ふぁ、だめ、だめ、はずかし……んやぁっ! そと……そとっ、あるけ、なく、ん、なっひゃう、からぁ……っ!」
非力なエリーシャに彼の腕の動きを止められるはずもなく、呂律がまわらないまま懇願するはめになる。
突然愛撫が止まって手をつかまれたかと思うと、ぐるりと身体を半回転させられ、引き寄せられて、真向かいから噛みつくようにくちづけられた。
「んんぅ……っ!」
ひしゃげた唇から不明瞭な声が洩れたが、構わずきつく抱きすくめられる。
──オオカミに、頭からまるかじりにされて、捕食されてるみたい。
脳裏をよぎった被虐的な比喩が、息を奪われて霞んだ思考を埋め尽くしていく。エリーシャのなかの理性がとろとろに溶かされて、剥がれ落ちていった。
「ひぁ……ふ……あぅ……」
「……聞こえるくらいの声を出すのが嫌なら……どうする? ……やめる?」
やめるつもりなんてないくせに、唇や鼻先がふれあうかという至近距離で、フランクがそんなことを聞いてくる。
同時に胸の先をひっかかれて、また声がこぼれた。あまい疼きの虜になったエリーシャは、彼を責めるという考えすら浮かばずに、ただふるふると首を横に振って嫌がる。舞い上がった蜂蜜色の髪が、熱っぽいミルクと汗の香りを振りまいた。
「や……やめちゃ、や……」
「……もっと気持ちよくなりたい?」
「ん……ん……」
「ちゃんと口に出して言って?」
返事をした上にこくんとうなずいてみせたのに、さらにそんな要望をされて、顎を上向かされる。欲望の灯ったフランクの眼と視線がからんで、エリーシャはたまらなくなった。
「……きもちよく、なりたい…………ふらんく……もっと……」
涙をこぼしながら、胸のうちを唇から落とすと、彼は満足げな表情を返した。
脇に手を差しこまれたかと思うと、軽々と持ち上げられて、エリーシャの腰が浮く。彼の膝頭に座らされたと思うと、片方の肩を押されて半身を裏返され押し倒される。フランクの腿に小さな乳房が押しつぶされたかと思うと、腰に手を回されて起こすように引き寄せられた。
寝台に身体を預けたフランクの上で、彼とは頭の位置が逆になった状態で、四つん這いにさせられる。エリーシャは戸惑いながら振り向いて、彼の表情をうかがった。腕が伸びて、小さな頭に大きな手が乗って、正面に向きなおされて──目の前にあるものにぎょっとして、彼女は小さな悲鳴を上げる。
「ひゃっ!?」
「いじってあげるから、それで口に栓をすればいい。噛んじゃだめだよ」
「な……な……」
溶けた理性が一瞬にしてかたまって、顔が真っ赤になって、身体が恥ずかしさに震える。
鼻先にあるのは、硬く屹立した彼だ。前に両手で擦って愛撫して、フランクが気持ちよさそうな吐息を漏らした、そのあとで何度も何度もエリーシャの腹のなかをえぐって、どうしようもない快楽を引き出した、あの……。
──これを、口のなかに?
「……ひああぁぁっ!?」
エリーシャが背をのけぞらせて叫んだ。陰部に、突然つぷりと指が埋め込まれたのだ。
膣はすでにとろとろになっていて、彼の骨ばった指を難なく受け入れる。ゆっくりとなぞるように指を出し入れされて、全身に快楽と熱がかけめぐった。
触られることをずっと待っていた恥部がいやらしく蜜をあふれさせ、とろりとした愛液が腿にしたたる。
「んーっ! ん、んんんんっ……!」
エリーシャは敷布を握りしめて、唇を噛んで、嬌声を押し殺した。声を一生懸命に我慢しているのに、彼の指は容赦なく彼女のなかを掻きまわす。ぴちゅぴちゅと小さな水音に耳を犯されて、がくがくと震えていた身体から力が抜ける。
落ちそうになった腰が、彼の手ですくい取られた。尻をつかまれて、膝立ちのときのように高く上げられ、上半身だけが彼の腹の上でへたりと横たわる。
「……声が聞こえるよ?」
「んあ、や、や……!」
フランクの忠言に、エリーシャはぽろぽろと涙をこぼした。恥ずかしさと気持ちよさで、どうにかなってしまいそうで、こわい。
空いてる方の手で、やさしくあやすように頭を撫でられる。恐れに硬くなっていた気持ちを解きほぐされたような心地がして、エリーシャはかたく閉じていた瞼をうっすらと開いた。うしろ頭を撫でられ、涙と汗でぐちゃぐちゃになった顔が自然と上向く。ふと、プラムのようにつるんとした亀頭が目に入った。
指と言葉で散々弄ばれて沸きあがったいやらしい気持ちが、羞恥や理性を白濁させる。
──声が聞こえちゃうから……。
エリーシャは言い訳するように自らに言い聞かせて、おそるおそる唇を開いて、それに舌を伸ばし、口内に迎え入れた。
「んむ……っ」
初めての味が舌に響く。
そのまま舌の上をずるずるとすべらせて、ゆっくりと咥えこんでいく。
口の奥いっぱい、これ以上は無理だというところまで入れても、根本までは頬張れない。めいっぱいに開けた顎が痛い。口を奪われているせいで鼻で呼吸をするはめになって、そのたびに彼のにおいが脳を犯す。
うしろ頭に添えられた彼の手が、いたわるように髪を撫ぜた。そのままゆっくりとエリーシャの頭を押す。
「んぶ……はむっ……」
頭を押されると、自然と口で陰茎を抽送する動きになり、じゅるじゅると水音が響いた。苦しさと胸に押し寄せる感情に、涙がじわりとにじむ。
「…………気持ちいい。いい子だね」
彼が荒い吐息の合間に、あまい声でエリーシャを褒めそやした。
「──んぅっ!?」
彼を咥えたまま、びくんと背が跳ねる。
指とは違う、やわらかくてあたたかなものが、陰唇をなぞった。──彼の舌だ。ちろちろと舐められて、気持ちよさに勝手に腰が揺れ動く。
尻をつかんでいた手が離れたかと思うと、突然陰核が摘まみあげられ、膣に舌が押し入った。
「んんんん──っ!!」
鋭い快楽に脳を焼き切られたエリーシャが、激しく体を戦慄かせる。
腹の奥がきゅうっと収縮する心地がして、下肢の感覚が浮いたようになって、頭が真っ白になる。熱い愛液がほとばしって、腿を伝った。熱くなって、ゆるんで、溶けていく。
軽く達してあふれたことはフランクにも分かったはずなのに、彼はなおもしつこく陰核をこすり、舌を出し入れし、ちゅぷちゅぷととろけた水音を立てた。
止まない愛撫に、下肢が腫れ上がって膨らむような心地を覚える。それなのに秘部の感覚はどんどん鋭敏になって──何かが駆けあがる感覚に、ぎゅっと目をつぶる。
「ん! ん! んんんんんんぅ……っ!!」
びくびくと鞭打たれたように体が打ち震えた。今度は深く達したのだ。
ずっと焦らされていた分だけ波は大きくて、膣は痙攣を繰り返して驚くほど熱くなり、身体から珠の汗が流れ落ち、眼のなかで何度も白い星がまたたいては散っていった。余韻がまったく引かないのに、一呼吸おいて、またぐねぐねと膣のなかで彼の舌が暴れはじめる。
「んんんーっ! ぷ、あっ……! やっ、やっ、まだ、や……!」
「咥えてなきゃだめじゃないか」
「ひぁ、んぶ……っ!」
フランクが腰をひねって、彼女の口のなかに陰茎を押しこんだ。
彼の腰が波打って口内を蹂躙していく。それと同時にまた秘部をめちゃくちゃにいじられて、エリーシャは気持ちよさの波に押し流されて、何も考えられなくなっていく。
膚と汗のにおい、熱気、それから粘液が躍る音で、寝室が満たされる。
互いの陰部をむさぼる二人は、さながら貪欲な動物のつがいのようだ。
何度も達して意識が朦朧となったエリーシャの唇から、ずるりと生殖器が引き抜かれた。彼の上にくずおれて、体を横たえ、荒い呼吸を繰り返していると、脇に手を差し入れられて、抱き上げられて、向かい合わせにされて、くちづけられる。
「ん……あ……ぅ」
「……じゅうぶん気持ちよくなった? そろそろ挿れるよ?」
「……あ……、……で、でも……また……こえ……声が……」
ひとにぎりの理性をたぐって、そう喉を震わせると、鼻先が触れ合う距離でフランクが嗤った。それから彼は「レニがユーゼの傷を焼いたのを覚えてる?」と彼女に囁く。
──ユーゼの身体に残る瑕のかたちが、エリーシャの脳裏に浮かんだ。
かつてユーゼはヴォルケでの戦いで深手を負った。大動脈にもおよんだ傷は、彼女の身体から大量の血液を奪っていった。このままだとユーゼの生命も危ない、そう判断したレニが施したのが、焼灼止血法──火焔で傷を焼いて、出血を止めるという措置だった。
ただしこの止血法は、耐えがたい苦痛を伴う。レニは傷を焼く際に、ユーゼが舌を噛んだり歯をくだいてしまわないよう、彼女に自らの腕を噛ませた。
結果的にユーゼの命は救われたが、彼女には一生残る瑕が刻まれ、レニは腕を負傷した。
「君の場合は苦痛じゃないけどね。あの時のユーゼと同じようにすればいい。腕だと不便だから……こっちで」
フランクがエリーシャのうしろ頭を手で包み、ぐいと持ち上げて、彼女の唇に自身の肩を押し当てる。ちょうど肩の終わり、筋肉のふくらみがあるところだ。
驚いて「で、でも」と言うと、唇が彼の皮膚に触れ、塩からい汗の味が舌先に届く。
「別のものにする? 敷布だと声が漏れるかもしれないし、木の杭だと口にささくれが刺さるかもしれないけど」
「……う…………け……怪我しても、しらないから」
「別にいいよ。小娘に多少齧られたところで、痛くも痒くもない。そう、舌を下顎に押さえつけるようにして、噛んで──」
おそるおそる彼の肩におとがいを差しこんで、かるく歯を立てる。エリーシャは人間よりも八重歯が鋭く発達しているから、フランクの肩を食い破ってしまわないよう、気を付けなければならない。
なまぬるい汗の味がして、彼のにおい──あまい干し草が雨に濡れたあとのような、皮脂のにおいが鼻孔をくすぐった。そのにおいだけで、胸の奥がきゅっと窄まるようにあまく痛む。
「……ん、んぁぅっ……」
きちんと肩で舌を押さえつけているか確かめるように、陰唇に肉棒をにゅるにゅると擦りつけられて、エリーシャはくぐもった声を上げた。これから挿れられるのだと思うと、勝手に肌が熱くなって、とくとくと鼓動が速まる。
彼の身体に両手をまわして縋りつくと、彼も両腕でエリーシャのほそい体を抱きしめた。背すじにあてがわれた手のひら、その指の先端が尾てい骨を撫ぜる。勝手に腰がぴくんと跳ねた。
その拍子に陰茎から離れた彼女を追うように──ぐじゅりと一気に貫かれる。
「んんんんんぁぅ──っ!!」
下腹部に走った膨大な快楽に、エリーシャが押し殺した悲鳴を上げた。
狭い肉をこじあけられ、熱くて大きなもので一杯にされて、肉襞を擦りあげられる。激しく出し入れされて、奥をごつごつと突かれて、身体全体が揺さぶられる。
「んんんぅ、んん──っ、ん──っ!!」
指や舌とは比べものにならない圧倒的な質量に、なかをえぐられ続ける。激しく抽送されるたびに、膣が熱くなってとろけて、愛液がほとばしる。ぐちゅぐちゅと激しい水音を立てながら掻きまわされて、どこからどこまでが自分か分からなくなる。
何かにしがみついていないと押し流されてしまいそうで、エリーシャはぎゅうと彼の身体にまわす腕に力を込めた。どうしようもなく気持ちいいのに、こわい。正気を保とうと、身体がこわばる。
何度か出し入れされたあと、突然ずるりと濡れそぼったものが引いたかと思うと、今度は膣の浅いところに、にゅるにゅると押し付けられて──エリーシャはぞわりと総毛立った。
「んぅっ!?」
びくんと体が跳ねる。フランクの陰茎がゆっくりとそこを撫でさするたびに、ぞわぞわと背筋に悪寒が這い上がる。前に指で攻め立てられて、気狂いのようになったところ……。
(──だめ、おかしくなる……!)
本能的に腰を引く。けれど彼はそれを許してくれなかった。腰をつかんだ手に押し戻されて、一番弱いところを亀頭で穿たれる。
「んんんんぁう──っ!!」
目の前が真っ白になる。重い官能が子宮に響き、身体を駆け巡り、脳を犯す。快楽の濁流に押し流されて、くぐもった声で泣き叫ぶ。それでも彼はそこを擦り続けた。
いやいやと頭を振って、とめどなく涙をこぼす。たまらなくなって背に爪を立てる。肩に差しこんだ口蓋を思わずぐっと噛みこんで、その拍子にぷつんとフランクの皮膚が破れる感覚が歯に届いた。エリーシャの口内になまぬるい血の味が広がる。
「っん、んぁう、やらぁ、ひぁゃ……っ」
「……っ、しまる……っ」
唾液と血でぐちゃぐちゃになりながら喘ぐと、フランクは苦痛の混じったような吐息をはいて、彼女を抱きかかえた。骨も砕けんばかりに抱きすくめられて、頭も身体も快楽の渦にたたきこまれて、エリーシャはただただ彼の動きに合わせて嬌声をこぼす動物になっていく。
再び奥へと押し入られ、激しく揺さぶられる。腫れあがった秘肉が勝手に彼をぎゅっと握りこみ、怒張の一筋ひとすじまでを、如実に感じ取れるようになっていく。
眼の奥で星がはじけて、何度も脳が白く塗り替えられる。お腹の底が熱くて、気持ちよくて、どこまで堕ちていくのか分からなくて、こわいのに、やめてほしくない。
擦れあうたびに、彼はどんどん硬く、太くなって──くっ、と先端が膨れたかと思ったら、彼はエリーシャのなかから勢いよく杭を引き抜いた。
「ん──っ!」
「う、あ……っ!」
痙攣して波打つエリーシャの腰、その下腹めがけて、彼は白濁した精液をぶちまけた。ちょうど子宮の上にあたる皮膚の上に、熱くて粘りがある子種が飛び散る。白くてやわらかな、幼さの残る腹が汚される。
「やぅ……っ……」
突然膣を空にされたエリーシャが切なげな声を上げると、フランクは自身を一度手のひらで拭い、硬さの残る陰茎を、また彼女のなかにぐちゅりと押しこんだ。
「ふぁぁ……んぅ……」
鼻にかかったあまい声が漏れる。今度は擦りあげるような激しい動きではなく、ゆるゆると撫でるような、やさしい動きで押し広げられた。きつく身体を抱きしめられる。
高く舞い上がったものがゆっくりと降りてくるような心地と共に、とめどない幸福感が沸きあがった。胸があたたかなものでいっぱいになって、目じりに涙がにじむ。
「あ……あ……フランク……フランクぅ……」
名前を呼んで、ぎゅっと彼にしがみつく。
フランクはそれに応えるように彼女を抱く腕に力を籠め、頭をそっと撫でて、するすると髪に指をすべらせた。
彼が背を反らすようにして上半身を離したかと思うと、鎌首をもたげてエリーシャの鎖骨の下、胸のふくらみの途中に唇をつけた。そのままちゅうっと強く吸われる。
「あ……」
鈍い痛みが広がる。フランクが肌から顔を離すと、そこには赤い花びらのような跡がついていた。
涙目でそれを見下ろしていたエリーシャの頬に、また汗ばんだ彼の身体が寄せられ、ふちゃりと吸いつく。ちいさな穴が空いて血がこぼれているフランクの肩が目に入り、彼女は無意識のうちに舌を伸ばして、ちろちろと労わるように舐めた。
膣のなかで徐々にやわらかくなっていく陰茎の感触に、エリーシャは長く深い吐息をはいた。快楽のさざ波が、身体に倦怠感を残して、ゆっくりと引いていく。
とろりとまぶたが重くなった。そのまま彼の身体に身を預けて、誘われるままに眠りの海に沈みこむ──
「──んぅ………?」
揺れ動かされて、眠りを妨げられる。
小首をかしげて眼を開けると、また彼がぬるぬるとなかで動きはじめていた。ぼんやりとした頭でされるがままになっていると、陰茎に芯が戻り、どんどん硬さを取り戻していくのが膣越しに伝わってきて、エリーシャは眼をまるくする。
「え……え……?」
すっかり屹立した肉棒に擦りあげられて、エリーシャの腰に重だるい熱が戻る。彼女はあわてて彼の動きを止めようと腕をつかんだ。
「え、やっ、フランク、まって、なんで」
混乱した頭で彼を振り仰ぐと──フランクは意地の悪い笑みを浮かべて、エリーシャを見下ろした。
「……何月のあいだ我慢したと思ってる。僕が一度で収まるとでも?」
「……へ……あ…………ひあぁ……っ」
悲鳴と嬌声の混ざった声が、自然と上がる。
長い夜の予感に、彼女はオオカミを目のあたりにしたうさぎのように震えあがった。